「もう浮気なんて絶対しない、俺には千紗だけなんだから。だからお願い、捨てるなんて言わないで」

なんて言うかしろちゃんって、色っぽいんだよね。女の子たちにそう評される顔を、簡単に崩してしろはもう絶対しないとあたしにすがる。


「――もう、しない?」

――嘘つき。

「うん、もう絶対しない。俺には千紗だけなの。俺は千紗さえいてくれたらそれでいいんだから」


嘘つき、嘘ばっかりだ。これで何度目だと思ってんの。

心底ほっとした顔でしろは笑う。子どもみたいだ。
怒られたって最後は絶対、お母さんは俺を嫌いになるわけがないって、許してくれるはずだってそう盲信してる、子ども。

あたしがいつあんたの母親になったっての。


「ほんとに、しないんだよね?」

「――うん、絶対。ほんとに絶対だよ、約束」


その約束が何回目になるのか数えるのを止めたのは、しろの浮気がちょうど10回目を越えたときだった。

だから、これが何回目なのかは、あたしにはもう分からない。
しろが覚えてるはずなんてないから、迷宮入りだ。


しろの手が、あたしの首筋をなで上げて、頬に伸びる。
甘えを含んだ瞳が絡んで、そのままキスが落ちてきた。額に、瞼に、頬に。

唇に触れる寸前、「千紗」と、声だけはどこまでも真摯にしろが呼ぶ。