「あ…の…」
「……何が?」
私と彼の顔の距離、10センチメートル。
「……酷いって、何が?」
怖くて縮こまってるせいか彼を見上げる形になり、更に怖さが増す。
息がかかる距離で見下ろされてる私は、身動き一つ出来なくて。どう考えても彼から逃げる事なんて出来ない。
「なんで帰るの?」
「あ……よ、用事が、あって…」
「なんで逃げたの?」
「………」
「それは答えないわけ?」
……言えるわけ無いじゃん。
私が無言で目をそらすと、させるかと手で顔を掴む。
「質問に答えて」
数年前の高いアルトの声なんて忘れてしまうほどに、耳に甘く残る掠れた彼の声。
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