「窓に何の恨みがあるんだ、ユリ。」
背後から伸ばされた手につかまれたモップは、
窓ガラスに届く前に止まって、ビクともしない。
逆らって力をうんと入れるのに、
ゆっくりとモップは引き返してきて、
直立に私の横に立つ。
ごん、とまた小さく、音がした。
その音と同じくらいに小さく、
リョースケ先生が静かに口を開く。
「それをぶつけたい相手は、ここにはいないだろ。」
先生の言葉はちゃんと聞こえていたけれど、
私は逆らって、上に向けて、つかんだ手にぐいぐいと力を入れた。
同じくらいの強さで、先生の手がそれを押し返す。
「どんなにデカイ声でわめいたって、強い力で暴れたって、相手がその場にいなきゃ、届くわけないだろ。
直接ぶつかれば、こんなもん、いらないんだよ。
声だって、力だって、目の前にいりゃ、小さくても充分、響くんだよ。」
それでも私は逆らって、さらに両手に力を込める。
何度かモップの柄は床を離れようとしたけれど、
先生の手がそれを許さない。
負けじと先生も、力を入れる。
つかんだこぶしが、白くなっている。
負けじと?

