ユンの笑い声だ。
マイアも、表情を固まらせていたフィーネも、唖然とユンを見た。
ユンと知り合ってから一度も、彼が声をあげて笑っている様子を見たことがなかったから。フィーネも、言葉をなくしてユンを見つめていることから、きっと彼女にとっても珍しい光景だったのだろう。
「……ユンってば、楽しそうねえ」
緊張感のかけらも窺えないような、間延びした声がユンを非難する。
「ほらほら、ちょっと片づけるのを手伝ってちょうだい。ほら、マイアちゃんもよ」
フィーネが見せた苦笑には、優しさが滲んでいた。
怒っていない。
もう一度頭を下げて謝り、安堵する。けれど、マイアはそのときすでに、意識はフィーネではなくユンに向かっていた。
ユンでも声をあげて笑うことがあるんだ――。
そんな、忘れかけていた日常の欠片が次々とマイアの瞼の裏に浮かぶ。
ユンが熱いお茶で火傷しそうになった日のこと。フィーネさんが、珍しく怒鳴りつけている様子。何気ない日々――。
現実逃避したくてたまらないとき、でも、それでも何か考えていないと落ち着かないとき――苦しみから逃れようとしているときは、過去の出来事を思い出すのだろうか。
こんな出来事もあった、そういえば、あんなことを言われた、と思い出していくうちに、ふと、マイアの脳裏に突然違う景色が飛び込んできた。



