息を切らし、髪を乱したまま転がり込むように部屋に入ってきたマイアを見て、フィーネは微苦笑を浮かべた。扉を叩く音もなく、礼を欠いた来訪で普段ならば目を光らせて自制を促すのだが、今この場でそれをする気にはならなかった。
よほど急いで来たのだろう。
息を整え、声すらまとも出せずにいるマイアがようやく落ち着いた頃、フィーネは椅子から立ち上がり言った。
「……まずは落ち着きなさい。水でいいかしら」
フィーネに促されるまま、マイアはソファーに腰をかけ、大きく息を吐いてフィーネを見上げ頷いた。
水差しを持つフィーネの手が震えていた。
マイアはそれに気づいているのか、それとも気づいていないのか、何も言わずフィーネの手元だけを見つめている。
グラスを手渡されると、マイアは唇を湿らせるように口に含み、続けていっきに水を飲みほした。爽やかな檸檬の香りが、マイアの目にようやく光を取り戻させた。
どのようにして伝えるべきか、フィーネは考えていた。
先ほどの、マイアの慌てた様子からも、何か考え込むように口を閉ざしている様子からも、全く知らないというわけではないのだろう。



