マイアが伝えたかったのは、違う。
ただ、私なんかに気を使わないでください。そう伝えたかった。けれど、適当な言葉が咄嗟に思い浮かばなかった。
すると、目の前のクラウスが苦笑する。
「もっと気楽にしてはもらえないだろうか。――もう我々は家族だ。すぐには難しいかもしれないが、ゆっくりでも受け入れてもらえたら嬉しい。そんなにガチガチに緊張されたら、こちらとしても緊張してしまうのでな」
そう言いながら、クラウスは目元をくしゃくしゃにして微笑った。
マイアは、似ている、と思った。
フィーネとクラウス、どちらも顔立ちは全然違うのに、笑った表情は、両親そろってユンにそっくりだ。いや、この場合、ユンが彼らに似ているのだが。
そうして、マイアはようやく心から安堵の息を吐き、「はい」と笑顔で頷いた。
マイアの緊張がほぐれた表情を見て、クラウスも満足そうに頷く。鼻下の髭もにっと笑う。金に近い薄茶色の長い髪が、うなじの辺りで揺れた。革紐でひとつに結われた髪は、馬の尻尾のようだった。



