この場にステイルがいなくてよかったという思いを浮かべて、マイアは慌てて胸の中で首を横に振る。
(もう、関係ないもの)
自分がレナータのような女性ならば、きっとステイルにため息なんてつかせなかっただろう。それどころか、女性として手放したくない、と思わせることもできたのかもしれない。女性らしい気配りもでき、自然な笑顔で相手と接し、さらに同性であるマイアから見ても美人と言える容姿となれば、好意を抱かないほうが不思議でたまらない。
レナータとステイルが面識あるわけではないのに、そんなことを考えずにはいられなかった。ただ黒髪が似ている、という共通点だけで。
一度、思案の糸に絡まってしまえば、抜け出そうと必死にあがいたところで逆に手足を拘束されるばかりだ。次々に思いが溢れてくる。ステイルのことを考えないようにしようと思えば思うほど、彼の仕草や声が鮮明に浮かんできた。
最後に交わした口づけも――。



