花嫁に読むラブレター



 ――マイア、言葉には気をつけな。言葉はいつか行動になる。行動は、習慣になるよ。

 誰に言われたのかは覚えていない。マリーおばさんだったのか、ブラウンおじさんだったのか。もしかしたらステイルだったかもしれない。瞼の裏に映る光景がおぼろげであれば、当時の状況もよくわからない。どんな場面でこの言葉をいわれたのだろう。最近ふと思い出すことが多くなってきたが、いつも不思議に思う。

 そして、この言葉を思い出すときは、決まってマイアが不慣れな人と対面しているときだった。

 横長のテーブルには、食事がたくさん並べられ湯気がたちのぼっている。明かりは部屋の隅に置かれた燭台の暗い光と、テーブルの上に置かれた蝋燭の炎だけ。白い布地のテーブル掛けに、影が落ちてゆらゆら揺れている。

 分厚い眼鏡をかけた少女が、うなじから垂れた太い編み込みの髪を揺らしている。どこか落ち着きのない様子で、マイアとユン、そして正面に座るフィーネとクラウスのテーブルに食器を並べていた。時おり手元を狂わせ、しんと静まった室内に食器が重なる音が響く。そのつど、せわしない動きで頭を下げきょどきょどと辺りを見渡していた。