夏色ファントム


耳が千切れそうな気がする。
そんな俺に構わず、引っ張っていたおじさんの動きがピタリと止まった。

耳を掴む力が弱くなる。
俺はその隙におじさんからの手を逃れ、彼の方を見た。

おじさんは、俺に背を向けていた。
顔は見えないが、何か小刻みに震えている。

「あわ……あああ……」

おじさんの目線の先に凛がいた。

――血塗れの。

「……彼を離して」

「ああぁ……」

「……それと、ここから出ていって」

凄んだ凛はやたらと迫力があり、おじさんは悲鳴を上げて逃げ出していった。

俺も逃げたい。
ヤバい、怖い。
なのに足が動かない。

凛が俺に近付いてくる。
怖い。

俺は目を閉じた。