「ほう?具体的に何かあったのかね」
「まあいろいろと。今日はこの子たちの話を聞いてあげて下さい」
 そう言って上条さんは俺と前島に園田先生の事を話すように言った。俺たちは、というかほとんどは前島が、なんだが、園田先生の身に起きた事を日教連の人たちに詳しく話した。聞き終わった瞬間、委員長のおじいさんは「ハァー」と大きくため息をついた。そして続けた。
「そういう人事に介入するようなことは慎んで欲しいとあれほど……」
 隣の眼鏡のおばあさんが同調する。
「その学校の噂は私、知ってます。とても若い女性の先生を赴任させられるような所ではありません。委員長、これは何とかしませんと」
「分かっております、書記長。ああ、君たち、園田先生と言うんだね、その人は?よし、分かった。元の勤務先に戻すということは無理だが、別のちゃんとした学校に転任できるよう私が責任を持って手配する。それでいいかね?」
「はい!」
 俺は思わず怒鳴るような大声で答えてしまった。前島は椅子から勢いよく立ち上がって深々と頭を下げながら言った。
「よろしくお願いします!」
 上条さんが椅子から立ち上がって言った。
「では今日はこれで失礼します。あ、そのディスクはそちらで持っていて下さって結構です。コピーですから」
 日教連の人たちはみんなあわてて引き留めようとした。委員長のおじいさんが上条さんに言う。
「もう帰るのかね?せっかく来たんだから、もっとゆっくりしていかんかね?」
「いえ、この後予定もありますし。それに、来月には定例の日教連と全革連の対話集会もあるでしょう。そこでまたお会いできます」
「ああ、そうか。もちろん上条君たちも出席してくれるんだよね?」
「はい、私には最後の仕事になりますから」
「うん?最後とは?あっ!そうか、君はもう3年生だったね」
「はい。この夏休みを最後に全革連は引退です。後輩とも引き続きよろしく」
 書記長と呼ばれていたおばあさんが上条さんに言った。
「あらあ、それはさびしくなるわね。でも受験では仕方ないわね。受験勉強、大変でしょうけど、がんばってね」
「はい、ありがとうございます」