俺の視線は思わず右隣の列の二つ前の前島美鈴の方に向かってしまった。昨夜の本屋での出来事がまざまざと頭の中によみがえって来た。俺は前島の背中を見つめながら、あれが本当に起きた事だったのか、それともひょっとしたら俺の見た夢だったんじゃないだろうか、と考えていた。先生の声が続いた。
「では、教科書の36ページを開いて。難解な文語体から、より分かりやすい口語体へという流れの中で革命的な進歩を残したのが、2006年版『あのライトノベルがすげえ!』総合ランキング1位に輝いた、『たわ言シリーズ』の記念すべき第1作、この『リストラ・サイクル』なのである。この文体をよく味わって読むように。では十分間の黙読」
 ううん、そりゃ本に書いてある文章は分かりやすいに越した事はないだろうけど。この東尾攘夷とかいう人の文章、俺たちの話し言葉を完全に追い越して半周ぐらい先に行っちゃってる様な気がするんだけどな。
 あう。