「うるせぇ。いいからほら、さっさと掴まれドジっ子。あと、泣くな。俺が泣かせたみたいだろ?」

男の人は、暴言を吐きながらも、手を差しのべてくれた。俺が泣かせたみたいって……実際そうなんですけれどね。
でも、助けてくれるみたいだから、文句は言わないでおこう。

「あ、ありがとうございます……」

ぎゅっと、その人の手を掴んだ。よく思えば、男の人の手を握ったのって、これが初めてかもしれない。自分の手より、一回りか二回りも大きくて、案外暖かい手だった。

「歩けるか?」

「は、い……」

男の人の力を借り、なんとか立ち上がることができた。片足を引きずれば、歩けないこともない。

「とりあえず、あそこに座るぞ」

男の人が指差したところを見ると、街灯の下にベンチがあった。
この人、口調の割りに優しい人のようだ。まあ、当然といっちゃあ当然だよね。自分が怪我させたんだし。

「ふぅ……」

男の人に半ば引きずられながら、私たちはベンチのところに辿り着いた。
そこで、ふと気づく。

「っ……!」

街灯に照らされ、今ようやくはっきりと見えた男の人の顔が、想像していたものとは全く違っていた。
口調や声からして、絶対にいかつい不良だと思ったのに、その顔は正反対と言っていいほど。
黒縁眼鏡をかけた、きれいにセットされた黒髪の美少年だった。白シャツにジーンズというシンプルな格好も、また似合っている。
こういう人こそ、イケメンという言葉がぴったり。もしかしたら、それ以上かも。

「靴脱げ」

端正なその顔に見とれていたら、いきなり声が聞こえてびっくりした。

「あ、はい」

言われた通りに、ヒールを脱いだ。

「……腫れてるな」

自分で見てもわかる。確かに、私の足首は赤く腫れていた。捻挫、というものだろうか。

「仕方ない……とりあえず休戦だな」

「休戦?」

男の人は立ち上がるなり、携帯を取り出して電話をかけ始めた。

「あーもしもし。俺だけど。ドジっ子にぶつかって怪我させた。あ? ああ、捻挫。歩けねぇみてぇだから、送ってく。……うっせぇ黙れクソガキが。まぁとりあえず、休戦ってことで他の奴等にも伝えとけ」

電話を終え、携帯を切った男の人は再び私の足元にしゃがみこみ、靴を履かせてくれた。

「あ、の……送って、くれるって……」