「春樹ぃ こんなコかまってないであたし達と遊ぼ♪」

 さっきまで怖い顔してたのになにこの変わりよう…。
 あたしはあきれて気づかれないようにため息をついた。

 ていうか、用事ないなら早くどっか行けば良いのに…
 いつまでここにいるのよ…。

 「あー…オレさコイツに用事あるから」
 「えー? じゃあ、終わるまで待っててあげる」

 はい!? 用事あるの!?
 サイアク……
 
 「いや、別に待たなくていいからどっか行っててよ」

 先輩が女の子達に向けて手を振る。
 女の先輩は「えー」とかいいながら教室に入って行った。

 「それで、先輩用事ってなんなんですか?」

 だんだんめんどくさくなってきたあたしは先輩の顔を見ないで言った。

 「あー、それなお前さ名前なんて言うんだよ」
 「はい?」

 反射的に顔を上げると先輩と目があった。
 お世辞じゃなく普通に顔はカッコイイ…。

 って! そうじゃなくて…!

 「名前…ですか?」

 この先輩あたしの名前も知らないで話し掛けてきたの…?

 「おぅ」
 「あたしは、川崎 芽衣歌っていいます」

 チラッと先輩を見ると顎に手を当ててなんだか悩ましげな表情をしている。
 この人は何がしたいんだろう…。

 「じゃ、じゃああたしはもうこれで…」
 「待って」

 軽くお辞儀をして先輩に背中を向けたときグイッと腕を引かれて視界が歪んだ。

 「きゃあ…」

 ドサ――

 体勢を崩したあたしは先輩に向かって倒れてしまった。
 スッポリ先輩の腕の中に埋まっているあたしの体。

 後から抱きしめられる状態になってしまった。

 「なにするんですか…」

 体を起こしながら先輩の方を向くといきなりギュッと抱きしめられた。
 耳元に先輩の息が微かにかかる。

 ドキ――

 急に心臓が暴れるように動き出した。

 「離してください…」

 恥ずかしくて声がでなかった。

 「放課後、屋上で待ってる」
 「え?」

 それだけ言うとフッと腕の力が緩んだ。
 そして先輩は教室に入っていってしまった。

 あたしはペタンと力なくその場に座り込んでしまった。
 
 少しして昼休みの終わりを告げる鐘が廊下に響いた。