「芽衣歌」

 心の中で先輩を分析してると真由が話し掛けてきた。

 「はい…」

 なぜか敬語になってしまう。
 
 「どうしたの?」

 視線を先輩から真由にずらした時初めて気がついた。
 真由の顔が真っ赤だってことに…。
 
 「あたし…行ってくるから、ちょっと待ってて」

 買ったばかりのジュースを握り締めて力強く言った。

 「うん…!」

 だからあたしも力強く頷いた。
 あたしが真由の制服を離したとともに歩き始めた。
 
 「がんばれ…」

 小さくなっていく真由の背中に小声でエールを送った。


 「ねえ…」

 真由が行って間もなく後から話し掛けられて肩がビクッと震えた。
 
 「はい…」

 ぎこちなく振りかえる。
 
 「何でしょう…」
 
 緊張で変な喋り方になってしまった…。
 恥ずかしい…

 そんなあたしを後にいる彼が「フッ」って笑う気がした。
 
 「なんでそんなに緊張してるわけ?」

 ようやく振りかえったあたしは背の高い彼を見上げた。
 目の前にはさっき教室でぶつかった男子が涼しい顔で立っていた。

 「あ! さっきの…」

 あたしは目を見開きながら言った。
 きっと今のあたしはだれよりもマヌケな顔をしてると思う。

 「あぁ、そーいえば、さっきも会ったな?」

 小首をかしげてあたしに笑いかけてくる。
 周りにはたくさんの女の子がいて…。
 
 「ねぇ 春樹ぃこのコ誰?」
 「もしかして、彼女!?」

 はい!? 彼女!?
 そんなわけないでしょ!! ていうかアンタも否定してよね!?
 
 年上だってことも忘れて心の中で叫びまくってるあたし。
 そんなあたしを横目に『ハルキ』と呼ばれた先輩は女の子達に何やら説明してる。

 「なぁんだ、彼女じゃないんだね。良かったぁ」

 化粧の派手な先輩があたしをチラッと見ながら先輩の腕に自分の腕を絡めている。
 なんだこの人達… 

 「てかさ、1年がなんでこんなトコにいるわけぇ?」

 語尾を延ばした言い方にちょっとイラっとしながらも一応先輩だしね…
 ここは敬語じゃないとダメだよね。

 「あの…友達を待っていて……」

 「ふーん、あっそ」

 興味がなさそうにプイッと顔をそむけた。

 なによ、それだけ!?
 意味わかんない先輩…。