「セナちゃん、ちょっと良い?」


バイトの終わり、店長に呼び止められた。


“どしたの?”と言いながら、店長の向かいの椅子に腰を降ろす。



「…この雑誌、知ってるよね?」


そう言って差し出されたのは、地元のバンドを取り上げるマイナー雑誌。


これに載ればこの辺り一帯で認められた証拠のような、

みんなが憧れる雑誌だ。


もちろん、あたしだって知っている。



「…実は今、人手不足らしくてね?
セナちゃんもし就職決まってなんなら、どうかと思って。」


「―――ッ!」


瞬間、目を見開いた。



「…インタビューしたり、ライブレポ書いたりなんだけど。
セナちゃんなら、うってつけだと思うんだ。」


まだ言われていることが上手く理解出来ないあたしに、

迷っているのかと思った店長は、優しく言葉を続けて。



「…音楽を世に出すってのはね、バンドのメンバーが居るだけじゃダメなんだよ。
レコーディングに携わる人も、PRする人も。
果ては楽器屋の人とか全てが携わることで、出来あがった音楽が世に出るんだ。」


店長はそう言いながら、楽しそうにお酒の入ったグラスをまわす。



「…関わる全てのものがあって、音楽は出来上がるんだ。
それを広める手助け、してみない?」


「したい!したいです!!」


身を乗り出しあたしは、目を輝かせた。


音楽は好きだった。


だけど、作り上げるような人間ではないことくらいわかってた。


あたしはずっと、嬉しそうに音楽を語るやつらが好きだったんだ。


そんなみんなの、あたしが手助けになれるの?



「…じゃあ、伝えとくよ。」


「お願いします!!」


笑顔を向けてくれた店長に、しっかりと頭を下げた。


これが魚雲のおかげだとするなら、ホントに凄いパワーだと思う。