「…何が原因かねぇ…」


そう呟きながら俺は、自分のデスクに広げただけの資料集を見つめた。


今一番気がかりなのは、清水が何に悩んでるか、だ。


ぶっちゃけ、他の生徒が受験に失敗しようとも、俺には関係ないとさえ思っている。


我ながら、教師失格。


2学期になり、仕事としては慣れたけど。


清水とのこんな生活も、残すところあと半年。


可哀想だから卒業させてやりたいけど、そしたら来年からつまんなくなりそうだしなぁ。



「悩み事ですか?」


瞬間、現実に引き戻されたように俺は、ハッとしてその声の主に顔を向けた。


首をかしげて俺に微笑む隣のデスクの女は、

産休に入った教師の代わりにやってきた非常勤講師。


生徒たちからは“美奈子ちゃん”とか呼ばれてる、桜井先生。


数学担当で、ムカつく白石誠のクラスの副担任でもある。


清水とは正反対のお嬢様のような微笑みに俺は、適当に言葉を濁した。


2学期に入って、この女が隣のデスクにやってきて。


確かに若い良い香りには包まれるようになったが、

俺の一個上らしく不安がイッパイで、よく話しかけられるのだ。



「でも、岡部先生は凄いですよね。
私なんて、未だに生徒の前だとアガってしまって。」


「気の持ちようですよ。」


赤らめるその顔に微笑み返し、次の授業のために立ち上がった。


ぶっちゃけ、この人苦手なんですけどね。


社会人になってすっかり板についた作り笑顔に、

顔の筋肉も慣れてしまったらしい。


誰にも聞こえないようにため息を吐き出しながら、職員室をあとにした。


もぉ無意識のうちに、清水の姿を探すことが日課になってしまった自分。


空を見上げるその姿を見つけては、次はどんな作戦で呼び出そうか、と。


考えてしまう俺は、やっぱり教師になんか向いていない。


だって俺、清水が居るから楽しいんだもん。