「…何かお前、この前も思ったけど雰囲気違うよな?
二重人格?」


首をかしげながら白石は、俺をまじまじと見つめて。


さすがの俺も、口元が引き攣る。



「…お前、見逃してやるんだから一本くれよ。」


“吸うのかよ”と言いながら白石は、

ポケットに入れていた自分の煙草の箱とライターを取り出した。



「それから、お前への貸しはまだ残ってるからな?」


不敵に笑いながら差し出された一本を抜き取って火をつける俺を、

白石は不貞腐れたような目で見つめてきて。


何やってんだかなぁ、と。


吸い込んだ煙を夜空へと吐き出した。




「嫌!離してッ!!」


「うるさい!!」


瞬間、住宅街に響いた男女の言い争うような声に、

目を見開いたまま白石と顔を見合せて。



「…今の声ってもしかして…」


「―――ッ!」


白石が全てを言い終わるより早く俺は、煙草を投げ捨てて足を踏み出していた。


間違いなくあれは、清水の声だ。


俺が聞き間違えるはずもない。



「えっ、ちょっ!
待てよ、岡部ッ!!」


背中から白石は制止の声を浴びせてきたが、その声は俺にまでは届かなくて。


この住宅街だけに、どこから聞こえてきたのかはわからない。


だけど一目散に向かうのは、あのコンビニで。


心臓が爆発しても、足の筋が切れたとしても。


今はそんなこと、気にしてる余裕さえなくて。



大切なんだ、アイツだけが―――…