家に帰った。


虚無感ばかりが俺を支配して。


あれからどうやって家に辿り着いたのかすら思い出せなくて。


気付けば灰皿は、短くなったピンカスが隙間なく溢れていて。


持ち上げた煙草の箱には、一本も残されてはいなかった。


こんな時でも腹は減るし、まだ煙草だって吸い足りなくて。


そう言えば今日、魚解禁するんだったっけ、と。


思いだした自分に、笑いが込み上げてきた。


フラフラと立ち上がり、家を出て寂しい街灯に照らされながら歩く。


冷たい風が俺の頬を射すように通り抜け、

痛みで未だに生きていることを実感した。


冷たくなった指先に、触れるものはなくて。


ひどく彼女のことを恋しく思う自分を嘆いた。



「…仕事、辞めようかな…」



再就職先を探すには、ちょうど良い時期なのだろう。


どうせクビになるんなら、自分から辞めた方が良いに決まってる。


そう思いながら、角を曲がった。



「―――ッ!」


「うおっ、岡部?!」


そう言った金髪頭は、とっさに持っていたものを地面へと投げ捨てて。



「…白石かよ…。
つーか、煙草バレバレだっつーの。」


地面に転がったまだ煙を昇らせるそれに一度目線を移し、

そしてため息を混じらせながら白石戻した。



「何でもするから!
だから、見逃せ!!」


「…別に良いよ、煙草くらい。
それからお前、もーちょっと頼み方ってもんを学習しろよ。」


やれやれとそう言いながら、こめかみを押さえた。


こんなもんをプライベートで取り締まったって何にもならないし、

何より俺は、もぉすぐ教師じゃなくなるんだろうし。