逃げたくなって瞬間、田口に背中を向けた。


だけど田口は、あたしの腕を掴んで。



「何で逃げるんだよ?!
僕はこんなに好きなのに、何で逃げるんだよ?!」


「―――ッ!」


恐る恐る顔を向けると、田口は瞳孔が開いたような瞳をあたしに向けて。


その瞬間、恐怖が走る。



「…ちょっ、やめてよ…」


そう震えながら言うあたしの腕を握り締める田口の手に、

苦痛に顔が歪むほどに力が込められて。



「嫌!離してッ!!」


「うるさい!!」



何であたしばかり、こんな目に遭うんだろう。


みんなの迷惑にならないように生きてきたじゃない。


あたしなんて、放っといてくれれば良いじゃない。



「優しくしたんだから、君だって僕のことを好きになったはずだろ?!」


自分勝手な理屈を叫びながら田口は、

抵抗するあたしの腕を引き寄せようと力を入れ続けて。


逃げられるなら、腕が取れたって良いと思った。



「…痛ッ…助けて…」


痛みとか、恐怖とか。


混じり合う全てのものに体が震えて。


誰かに助けて欲しかった。


ずっとずっと、そう思っていたんだ。


ちっぽけなだけの人間のあたしを、

こんなにも無力なあたしを、誰かに見つけて欲しかった。


見つけ出して、そして助けて欲しかった。