「…この前のあの男、何?」


顔を近づけ岡部は、そう聞いてきて。


まるで、あたしだけが責められてるみたいで。



「…あの男ともヤってんの?」


「―――ッ!」


そう言って岡部は、あたしの手首を握り締める手に更に力を込めて。


首筋に顔をうずめた岡部の前髪と吐息が、あたしをくすぐる。



「こんな場所じゃ絶対誰にもバレねぇし、最後にヤるのも悪くねぇよな。」


「…やめて…離してよ…!」


岡部のこと、初めて気持ち悪いとさえ思えて。


嫌悪感が体中を渦巻く。


その瞬間、握り締められていた手首から力が抜けて。


代わりに抱き締められた。


戸惑うあたしに、岡部はゆっくりと言葉を紡いで。



「…なぁ、俺の何が気に入らねぇの?
そんなに俺じゃ嫌?」


「―――ッ!」


岡部の声は、微かに震えているようにも聞こえて。


先ほどとはまるで正反対の声に、あたしは何も言えなくなった。



「…もぉ…こーゆーことしないで…」



あたしとアンタは、あの日無関係になったはずなんだから。



「…本気で終わらせたいなら、放課後、英語科の資料室に来い。」


「―――ッ!」


そう言って岡部は、ゆっくりとあたしから離れて。


その瞳がこちらに向くことはなかった。



「…行かないから。」


「なら、来るまで待ってるよ。」


それだけ言い残し岡部は、キィッと重い扉を開けて屋上を後にして。


ガシャンと音が響いた瞬間、頭を抱えあたしは、壁を伝って崩れ落ちた。