《短編》空を泳ぐ魚2

「清水さん。
この問題、前に出て解いてくれる?」


「無理。」


折角授業に出ても、相変わらずどの先生も何を言ってるのかサッパリで。


数学魔女に至っては、あの日の恩を忘れてやがる。


腹が立つし、この場で見たこと全て話してやっても良いくらいなのに。


あたしが当たり前のようにそう言うと、

どこかしらかクスクスと笑い声が聞こえてきて。



「…じゃあ良いわ。
山下くん、お願い出来る?」


唇を噛み締めた数学魔女は、あたしに向けていた視線を急いで逸らした。


数学なはずなのに何故か記号ばかりが並ぶ黒板を見つめながら、

呪いの呪文のような公式が聞こえてきて。


あたしはもしかしたら、数学魔女に殺されるのかもしれないと思った。




つまんないだけの毎日が、まるで焼き増しのように繰り返されて。


相変わらず、夢も希望も何もない。


岡部と来年も顔を合わせたくないから、卒業したいだけのこと。


宇宙飛行士にも人魚姫にもなれないことくらい、

馬鹿なあたしにだってわかるから。


声を失ってまで人間になろうとした人魚姫の気持ちなんて、

やっぱり未だに理解出来なくて。


タクちんも、もちろん岡部も。


王子様なんかじゃなくて。


お姫様になりたかったわけでも、女王様になりたかったわけでもないんだ。


ただ、吐き出す場所が欲しかっただけ。


これが数学魔女の呪いだと言うなら、アイツは天才的な魔女だ。


だってあたしは、

吐き出せないんだから結局、声を失った人魚姫と同じで。


人間になってしまった人魚姫と同じになんて、なりたくもなかった。