進路の報告をした途端、誰からも、何も言われなくなった。


みんな、丸く収まればそれだけで良いんだ。


あたしはこのまま、流されるままに印刷会社だか何だかに就職するのだろうか。



家にも帰りたくなくてあたしは、毎晩のようにバイトの終わり、

ライブの終わった余韻に浸りながら、誰も居なくなったステージを見つめて。


熱を失ったようにその場所も、そしてあたし自身も冷たくなっていて。


相変わらず、心の穴は閉じてはいない。




「セナちゃん、まだ居たの?」


突然後ろから声を掛けられあたしは、ハッとしたように振り返った。


ズボンのポケットに手を突っ込んで立っているのは、

誠のバンドのボーカル、“タクちん”だ。


格好良くて優しくて、それでいてバンドのリーダーなんだから、

女をとっかえひっかえしてそうに思われてるけど。


根は真面目な、専門学校生。



「…何か、帰る気分じゃなくてさ。」


それだけ言いあたしは、力なく笑った。



「んじゃあ、この前借りてたCD返したいし、俺んち行かない?」


「えっ?」


歯を見せて笑ったタクちんにあたしは、驚いて声を上げた。



「…良いよ、そんなのいつでも。」


「ってのはまぁ、口実でさ。
誠のことだよ。
アイツ最近練習中も上の空なんだけど、理由聞いても教えてくれなくてさ。
セナちゃんなら何か知ってると思って。」



そんなことか。



「しょーがない。
暇だし、タクちんち行ってあげるよ。」


「ははっ、サンキュ!」


子供のようにクシャッと笑ったタクちんに少しの笑顔を向け、

二人で一緒にライブハウスを後にした。