「タクシー呼びますよ。」


“帰りましょう”と言い俺は、逃げるように立ち上がった。


同じように立ち上がった桜井先生は、

瞬間、ガタッと音を立ててよろめき、俺にしがみ付いた。


服越しに、微かに伝わってくる少し早い心臓の鼓動。


この人、俺のこと誘ってんのかよ。



「…大丈夫ですか?」


「えっ、えぇ。
すいません、私…」


先ほどより更に紅潮した頬で桜井先生は、ハッとしたように俺から離れて。


清水居なかったら、俺もお持帰りしちゃうんだろうけど。


さすがに俺、そんな無茶出来る立場じゃないし。


てゆーか、アイツ抱きたくて堪んねぇ。


こんな女なんかいらねぇよ。





「…あの、岡部先生は…お付き合いされてる方とか…いらっしゃるんですか?」


静かすぎるタクシーの車内、桜井先生は俺に問い掛ける。


見上げてくる潤んだ瞳を俺は、作った笑顔で唇の端を上げて。



「残念ながら。」


それだけ告げた。


多分この女は、俺のこと好きになってたりするんだろうけど。


悪いけど、アンタには心動かされないや。



「運転手さん。
そこのコンビニ入ってください。」


そう俺は、声を上げた。


すぐにタクシーは、コンビニの駐車場へと入って。



「水、買ってきますね?」


「あっ、私も行きます!」


降りようとした瞬間、桜井先生も声を上げて。


離れたいから、降りたのに、と。


再びため息を混じらせた。