「…私、この前まで居た学校が女子高で…」


そう話しながら桜井先生は、洒落た居酒屋で透明な色を口に含む。


その姿を横目に見ながら俺は、

焼酎をロックで飲む彼女に愛想笑いを向けた。


まぁ、見るからに“お嬢さん”な桜井先生が、

うちの学校に慣れるには、時間が掛かるのだろうけど。



「…私、正直言って先生のクラスの清水さん、苦手なんです。」


こんなところで聞きたくない名前に、ため息を混じらせた。


思い出したくないってのに、ずっと頭の中にはアイツが居て。



「それに、うちのクラスの白石くんも。」


酔っ払っているのか桜井先生は、

相槌を打つ俺にそう付け加えながら言葉ばかりを投げて。


こんなところでも、清水と白石、か。


まぁ、あの二人はうちの学年で問題児ツートップだしね。



「…清水さんだって、真面目に授業を受けてるのかと思ったら、私の話に聞く耳持とうともしないし。
きっと、家庭環境や友人関係が悪いに決まってます。」



いや、アンタは性格が悪いよ。


そう言いたかったが、言葉を飲み込んだ。


こんな状態でも、清水の悪口なんて俺は聞きたくない。



「…飲み過ぎですよ、桜井先生。」


そう言って彼女が手に持つグラスを俺は、無理やりに取り上げた。


流れるスローなラテン系の音楽。


俺の冷えた指先が桜井先生の手に触れた瞬間、彼女は顔を俯かせた。


そして上目がちに俺を見上げながら、手の平を胸の上で固く握り締めて。



「…私、岡部先生しか頼れる方が居なくて…」


「―――ッ!」


アルコールの所為なのか赤く染まった頬に、潤んだ瞳。


胸の上で握り締めていた桜井先生の手は、心なしか震えているようにも見えて。