もぉ何年も、泣いたことなんてなかった。


最後に泣いたのは、確か小学校低学年の頃、リレーで転んだ時だ。


まだ、お母さんが生きていた頃。


そんな遠い昔にしか泣いた記憶がないあたしには、

今更どうやって泣けば良いのかなんてわかんなくて。


吐き出すことも出来なかった。


だから、走り抜けたのに。


転べば、きっと泣けると思ったのに。


なのに転ぶより先に、誠の家に着いてしまって。



“セナだって、真面目に進路のこと考えろっつーの”


今もまだ、岡部の言葉が耳にこびり付いたように離れなくて。


そのまま息を切らしあたしは、誠の家のチャイムを押して。


ママさんに誠の部屋まで通され、一度呼吸を整える。



―コンコン!

「誠!あたし。」


それまで聞こえていたギターの音が無くなり、代わりに足音が聞こえて。



―ガチャッ…

「…セナ?」


「届け物。」


握り締めて走ってきた所為で少しクシャクシャになってしまったプリントを、

突き出すように誠に渡した。



「…サンキュ。
つーか、機嫌悪そうだな。」


「放っといて!」


スウェット姿でのん気に頭をかく誠を睨み付けた。


元はと言えば、誠の所為だ。



「…てか、岡部何か言ってた?」


「知らないわよ!」


それだけ言い、フンッとあたしは、誠に背中を向けて。


あんなヤツの名前なんか、聞きたくもない。


背中から何か言われてたような気もするがあたしは、

足を止めることもなく、そのまま誠の家から出た。