「セナ!」


どれくらいの時間だっただろう、立ち尽くしていたあたしは、

名前を呼ぶ声と共に瞬間にぬくもりに包まれて。


気付いたら、息を切らした岡部に抱き締められていた。



「…襲われたのかとか…すげぇ心配したじゃん…」


「―――ッ!」


瞬間、あたしは唇を噛み締めた。


何を考えてこんなこと言うのかわかんない。


自分だって、あたしのこと襲うじゃん。


結局あたしは、そーゆー対象なだけじゃん。



「…やめてよ、誰かに見られる…!」


だけど岡部は、あたしを離そうとはしてくれなくて。


強く握ったビニール袋が、クシャッと音を立てた。


静かな静かな、住宅街。


点々とある外灯と月明かりが、ただあたし達を照らしてるだけ。


心地の良い風が、あたしの髪の毛をなびかせて。



「…とりあえず、俺んち行くぞ?」


そう言った岡部は、ゆっくりとあたしから体を離した。


抵抗したって勝てないことは、もぉ何度も思い知った。



半ば強引に手を引かれ、岡部の家へと連れて行かれた。


ベッドに腰を降ろした岡部にあたしは、

どうすることも出来ずにその場に立ち尽くして。


視線を向ける場所は、最終的に自らの足元になってしまう。


手に持っているプリンが入っただけのコンビニの袋が、やけに重たく感じて。


岡部と居るはずなのに、何故か息が詰まる。


地上の空気を初めて吸った人魚姫は、きっとこんな感じだったのだろう。


息苦しくて、堪らない。