《短編》空を泳ぐ魚2

それからバイトまでの時間、

誠の“気になる人”のことを、延々と聞かされた。


最近ライブハウスに来ていると言うその女のことをあたしは、

話し半分で相槌だけ打ち続けて。


正直、あまり興味なんてなかった。





それから無事にバイトは終わったのだが、本日ライブのない誠が居ないため、

ひとり寂しく家路につく。


最近誠のバンドは急激に人気になり、

よくライブに出ていたためか、一緒に帰っていたけど。


人気もない、こんな寂しいばかりの帰り道だったのか、と。


ポッカリと空いてしまった心の中で、そんな風に思った。


いつものコンビニに着き、もぉ当たり前のように買うものがなくても店に入る。


何を見ても、物欲も食欲も掻き立てられない。


こんな日は、よく岡部の家に行ってたんだけど。


今日ばかりは、そうもいかないだろうな、と。



「…あの、大丈夫ですか?」


「―――ッ!」


瞬間、声を掛けられてハッとしたように顔を上げると、

店員の男が心配そうに、あたしの顔を覗き込んでいた。



「…えっと…」


「あっ、ごめんなさい!
常連さんだし、今日は元気がなさそうだから心配しちゃって!」


“田口”と名札に書かれていた男は、焦ったように言葉を並べて。


そんな姿に力なく笑いあたしは、横にたまたまあったプリンを持ち上げた。


欲しくなんてなかったけど。


こんな風にされたら、何か買わないわけにはいかなくて。


レジまで持っていき、田口にそれを差し出した。



「…あの、イキナリこんなこと言うと変に思われるかもしれないんですけど。
もうすぐバイト終わるし、僕で良ければ話聞きましょうか?」


「あー…大丈夫です。」


人の良さそうなその顔に愛想笑いを浮かべながら、

100円玉と5円玉を差し出した。


そして小さな袋に入っただけのプリンを受け取り、コンビニを出る。