「…誰?」


キョトンとして清水は、歩み寄ってきた桜井先生に首をかしげる。


多分コイツのことだから、記憶にさえ残ってはいないのだろう、と。


ため息を混じらせながら俺は、女二人の間に入る。



「…今学期から数学でお世話になる桜井先生だぞ?
清水も色々と教えてもらうと良い。」


さりげなく教えてあげる俺に、清水はすっとぼけたように口を開いて。



「あぁ、魔女?」


「―――ッ!」



おい!!


さすがにヤバい気がして俺は、恐る恐る桜井先生に振り返る。



「…あなた、先生に向かって何を言ってるの?」


わなわなと震えた拳を教科書ごと握り締めている桜井先生は、

押し殺しているのであろう怒りのまま、唇を噛み締めた。


何だか面白いことになってんだけど、笑ってる場合じゃないし。



「…あなた、資料に書いていた通り、本当に問題のある子ね。
私の授業、一生受けないつもり?」


丸く収まる言葉を探す俺より先に口を開いたのは、桜井先生で。


さすがの俺も、良い気はしない。



「桜井先生?
清水は、個性的なだけですよ。
あまり資料を鵜呑みにして否定的に捉えるのは、好ましくないと思いますけど。」


「―――ッ!」


割って入った俺に、瞬間、桜井先生はカッと顔を赤くして。


とりあえず、清水が暴力事件なんて起こさなくて良かった、と。


胸を撫で下ろしながら、そちらに顔を向けた。



「―――ッ!」


悲しそうなのか、はたまた怒っているのか、と。


想像して顔を向けてみたが、

俺の視界に映った清水の顔は、そんな想像とは全然違った。


その瞳は、酷く冷たいようにも見えて。