「決まってるだろ?金に困ったら売るの」
「売る…?」

兄は顔を痛みで歪めながら、起き上がった。

「ダメだよッ!」
「いいか、よく…聞け」

私を抱きしめて、小声で話し始める。

「お前は、逃げろ。俺…が何とかする、から…」
「ダメだよ」
「お前、が助け…を、呼べばいい…」

兄は私のズボンのポケットの部分をポンッと叩いた。
すると、自分のポケットからケータイを取り出し、兄さんに見えないように私に手渡して来た。

「俺の…使え。今から、部屋…戻った、ら気付か…れる」

兄は最後に微笑んだ。

「俺は、大丈夫。…簡単には、死な、ねぇ」

そう言って脇腹にあった服を自分で押さえる。

「行け。そんな、に俺も長くは…」
「死なないでねッ!」

兄を見ているのが辛くなった私は兄と兄さんに背を向け、走り出した。

それに気付いた兄さんは私を追い掛けようとしたらしいが、兄と言い争いをする声が聞こえて来る。

玄関のドアを開け放ち、外に飛び出す。