突然海羅がその場を去ろうとした俺を呼び止めた。
「ん?」
「覚えてないの?あたしのこと」
彼女の問いに、一気に頭が混乱。
どういうことだよ……
「何が言いたいんだよ」
「あの日だって、ここで2人で会ったじゃん。瑠衣は忘れたの?」
よく見えないけど、彼女の瞳は暗闇の中で輝いていた。
それはきっと涙で、悲しさから来るもの。
「いきなりどうしたんだよ」
「あたしはずっと、瑠衣を見ていたのに。昔から変わらずにここであなたを待っていたのよ?」
「話してくれなきゃ分からないだろ」
「……もういいよ。今のことは忘れて」
“ごめんね”と、海羅の声が闇に溶けていった。
少しうつむいて上を見上げると、もうそこに彼女はいなかった。

