昨日、私の心を奪ったのは彼でした。



蘇る、6年前のーー


「っっーーぁ、ご…ごめんなさい!私、何言って…っ」


しばらくの沈黙の後、我に帰った乃梨子は顔を赤くしてうつむいた。

(こんなこと言っても、裕也さんを困らせるだけですのに…っ)


「先程の失言、お忘れになってくださいっ…お、おやすみなさいっ!」

「あっ…」


顔を真っ赤にして去っていく乃梨子を、裕也はただ黙って見送るしかなかった。


「俺のことが心配…か。」


あんな風に心配されたことは初めてだった。

いつも長男である自分が家庭を守らなければならないと、これまでがむしゃらに生きてきた。

幼い頃は小さいのに頑張ってるのね、えらいね、と褒められていたけれど、今となってはバイトの掛け持ちと兄妹の世話は当たり前になっていて。

昔と、苦労は変わっていないのに。

寧ろ苦しくなっているのに。

辛い状況の中で、辛いとも言えず、もがいていた自分。


けれど、あの子の言葉で救われた気がした。


「俺…苦しいって言っていいのかな。」


何も知らないお嬢様に救われるなんて…。

まだまだだな、俺。


気を取り直して、改めてハンドルを握り、今度こそ、バイトを再開した。