桃屋を後にしたおじいさんはそのまま帰る事にした。

理由は簡単。

鬼が島に向かうとなれば日が暮れてしまうだろう。しかも、空模様も芳しくない。太郎と会う為にわざわざ鬼が島に行くよりは明日また桃屋に行った方が楽である。

家路を辿ってると、向こうから太郎が来るのが見えたおじいさんは、なぜか胸の鼓動が速くなるのを感じた。

どう話を切り出そうか。

「あ、いや、太郎くん。元気か?」

「元気といえば元気だよ」

「元気なのは良い事じゃ」

「元気な自分に感謝してますよ。それでは」
太郎がそのまま立ち去ろうとしたのでおじいさんは慌てて止めた。

「まあ、待て。昨日の話なんじゃが、聞かせてくれんじゃろうか?」

「興味持ってくれました?嬉しいな。実はね……」

太郎は、昨日無愛想な対応をしたおじいさんに対して、嫌な顔せずに爽やかな笑顔で話しだした。ごにょごにょごにょごにょ。

要約するとこうだ。

先日、難破した船にはこの村の住人が五年間働かなくても困らないほどの財宝が積んである。それを三人で山分けをすれば三人とも大金持ちになれるから、おじいさんの夢も叶うとの事。

おじいさんは驚いた。

「夢!?夢とはなんじゃ?」

「立ち聞きする気はなかったんですが、先日山に入ったらおじいさんが大声で叫んでいたものですから。松茸はどこじゃ~!トリュフはどこじゃ~!このままだと美人と結婚できないんじゃ~!って」

おじいさんは赤面する。

「な、なんじゃと!あ、あれは違う!」

「まあまあ、落ち着いて」

「違うんじゃ!」おじいさんは弁明しようとするが太郎に遮られた。

「おじいさんの夢に対して僕はどうこう言うつもりはないですから。だから先ほどの話に戻りますが……」

また要約させていただく。

太郎曰く、鬼が島に行くのは簡単だが、赤い顔の大男と真っ青な顔の大男が十数人いて、その大男たちからどう財宝をいただくかが問題との事。ただし、少しのお金があれば戦力を得られる。自分は率先して戦いに参加するし、味方も雇う。しかし、自分にはお金がないのでおじいさんに用立てて欲しいと。

おじいさんは考える。

用立てると言っても一か月分だ。身元が判明してるから逃げられる事はないだろうが、失敗する事はある。

おじいさんはさらに考える。

話は聞いた。自分で鬼が島に行って金をせしめれば解決するのでは、と。

おじいさんはさらにもう一歩先を考える。

十数人の大男。とてもじゃないが、太刀打ちできん。金さえ用立てれば怪我をせずに大金を手に入れられる。たかが一か月分だ。わしは金持ちになる為に何十年も松茸やトリュフを探してきたではないか、と。



そして、おじいさんは太郎の申し出を受け入れた。