翌朝、おばあさんが洗濯をしに川へ向う時を見計らって、おじいさんは少年に会いに出かけた。

少年はこの村では有名人なので、居場所を知るのは至極容易であった。
しかし、面倒に巻き込まれるのが嫌で、昨日は知らぬふりをしたのだった。

少年は桃屋の息子である。

軒先に並べられた果物を選ぶふりをしながら、さりげなく少年を様子を伺おうと主人に話しかける。

「桃屋さん、つかぬ事を伺いますが、太郎くんはお元気じゃろうか?」

「太郎?太郎は嫌になるくらい元気ですよ。働きもせず毎日毎日犬や猫を連れてどこかに出掛けてます。本当に困ったものですよ」

「お子がいるのは本当に良い事じゃ。わしもお子を授かりたかったのじゃが、神様に嫌われてしまっての~」

「あんな子ならいない方がまだましってものですよ」と、主人はため息をつく。

「この前、太郎くんと偶然会っての。良い子なのでまた話をしたいんじゃが、どこにいっらっしゃるのかの?」

「お世辞が上手過ぎて、不思議と嫌味に聞こえますね」と、主人はため息をつく。

「いやいや。嫌味なんて。きっとわしと気が合うから良い子に感じたんじゃろ」

「太郎と気が合う方もいらっしゃるものなんですね。良かったら太郎に働くように言ってもらえますか?」

「もちろんじゃ。わしで良ければ」

「ありがとうございます。確か鬼が島に行くと言っておりましたので、今もいると思いますよ」

「鬼が島と言えば、先日見た事もないような船が難破したと噂になっておる、あの鬼が島じゃろか?」

「そうです。そうです。その鬼が島です」

「鬼が島……。わかりました!早速行ってみます」と主人に頭を下げて桃屋を後にした。