ボソッー……
『九条柚花ってあの?』
『えっ、でも黒髪だし。』

『雰囲気ちがくない?』
『記憶喪失のせいじゃない?』

『つか記憶喪失ってマジで?』

そう、自らが思っていることをポツポツと言い出した。

明らかに顔を歪ませているクラスメートに直樹と翼はすかさずフォローを述べた。

『みんなさっ、前と比べるかも知れないけど昔とぜんぜん違うし、普通に接して欲しい!』


『そうそう、現に僕と柚花ちゃんはチョー仲良しだし♪』


『あの九条を直樹とあいつら以外で【柚花ちゃん】って呼ぶなんて……。』

事態がよく分かってない柚花はある生徒が言った【九条】と言う言葉に引っかかった。


『あの、皆さん!親しくなれるようにわたしの事は柚花と呼んで下さい!』
柚花は名前で呼びあえば直樹と同じ様に仲良くなれると思っていた。


しかし、それ以前に問題があった。


シーンー……
誰も声を発せずとも思っていることは一緒だった。


たん、
それまで音のなかった部屋に足音が響いた。

『お~い、何やってンだ?SHL(ショートホームルーム)始めるぞ~!』
なんとも言えない緩い声で1年B組の担任が入ってきた。

その声と共にクラスメートが一斉に自分の席へと向かっていた。

『おい、九条!』
そう言って担任は柚花に目を向けた。


『俺はこのクラスの担任の大原ってんだ、まぁ~よろしくな~。』

『はい、記憶がなくて分からないことが多いですが、宜しくお願いします!』
ペコッとお辞儀する柚花を見て大原は目をパチクリさせて
『ああ。』
と言った。


『柚花ちゃんの席は俺の隣だから此処ね。』
そう直樹が指差した場所は窓側の一番後ろだった。


直樹の前には翼がいた。

『じゃー、まー、SHL始めるかー。』


そうして微妙な空気を1年B組の部屋にのこして、このクラスのSHLが始まった。


3席の空席がありながら……。