『記憶喪失……。』
成る程。そうボソッと翼は呟いた。
『翼……。』
直樹はいずれ知るといっても、言っては欲しくない事を翼が言わないかと眉を寄せた、苦痛の表情で翼を見ていた。
チラッ
翼は一瞬直樹に目をやったあと何となく察しがついたように今自分が言おうとした言葉を飲みこんだ。
そして先程と同じ様に柚花に満面の笑顔を見せた。
『九条さんは何で金髪から黒髪にしたの?』
『へ?』
直樹は思いもよらない翼の質問に自分でも間抜けと思うような声を出した。
そんな直樹を見て翼はニヤっと笑った。
(わかってくれたのか。)
直樹はその悪戯な笑顔を見て全ての自分の考えを翼は読み取ってくれたのだと分かった。
『金髪は目立つし、趣味じゃないからかな?昔の私は意味分かんない。』何も知らない柚花はそう言って髪の束を掴んで黒髪の髪の毛を眺めた。
『そっか~!でも確かに、九条さんは黒髪の方が似合ってるよ~♪』
『ありがとう!翼くん、私のことは柚花って呼んで?』
『分かった!柚花ちゃん♪これからよろしくね!』
『うん!』
一通りの会話に区切りがついたところで学校が目の前に建っていた。
『あっ、俺らはB組だから!』
言うのを忘れてたと言う感じに直樹は柚花に言った。
『因みに僕もB組だよ~♪』
『3人とも一緒なんだ~♪嬉しいな!どんなクラスか楽しみ!』
―――1年B組
ガヤガヤ
扉は閉まっていても教室の前の廊下は生徒の声が聞こえて騒がしかった。
『じゃ、俺らが先に入ろうか?』
『う……うん!』
『そんな緊張しないで~♪リラックス、リラックス!!』
『う……うん!』
【【リラックスしてないし……。】】
柚花の返答に苦笑いしながら直樹と翼は思った。
『よし!いくぞ!』
『うん!』
ガラガラー……。
一斉に部屋の中の生徒が、開いた扉に目を向けた。
『直樹~、翼~おはようー!』
『直樹~、今日遊ぼうぜ~。』
『翼数学の課題やってきた~?』
わらわらと直樹と翼の周りに人が集まった。
そして彼らはいつも通り、話に花を咲かせようとしたがその後ろにいる柚花に目をやって教室はシーンと静まった。
柚花は静まったことに驚いたが直ぐに我を戻して、挨拶した。
『九条柚花です!記憶喪失で皆の事が全く覚えてません!改めて名前を教えて下さい!』
そう言ってお辞儀した。
