『全くも~。直樹も一緒になってからかわないでよ!』

『ごめん、ごめん!!ついね!』
そう言って直樹は目をつむり、顔の前で両手を合わせる。


あれから遅刻してしまうと柚花が言って通学路の半分まで来ていた。


『もう!!しょうがないから許す!!』
『ありがとうございます~。』
『あっ!ありがとうございますの言い方が適当!』
『ごめんなさい。』

『全くも~。……、あっそうだ!今日は午後から雨が降るみたいだよ。登校初日なのに~。』

そう言って見上げると確かに厚い雲が迫ってきていた。


『まぁまぁ、天気なんて気にしずに今は皆と仲良くなれることを考えようよ。』
『確かにそうだね!!どうやったら仲良くなれるかな~?』

顎に手を当てて『うーん』と考えている柚花を見ながら直樹はこれから起こりうることに彼女が傷つかないように祈っていた。


ダダダダダー……
『とぉぅー!!!』

『うわっ!!』
直樹に突っ込んで来たのは直樹よりも背がずいぶん低めの天パが目立つ男の子であった。

『おい!いきなり突っ込んでくるなっていつもいってるだろ!!』
突っ込んで抱きついたままのその子を無理矢理離して呆れながら言った。

『だって~。直樹に朝抱き着くって新年の時神様に誓ったもーん!』

『“誓ったもーん”って……。全く!』

『ところでさぁ~、直樹の隣で目が点になってる黒髪の女の子はだぁれ?』
そう言って先程と変わって鋭い目を柚花に向けた。

『直樹~。あの子も浮気がちだからって直きっぐふっ!』
言葉を続けようとした彼に向かって直樹は彼の口を手で押さえつけて話せなくした。


『あの、直樹……?その人は?』
今まで黙ってみていた、……放心状態だった柚花が口を開いた。

『あっ……、こいつは……。』
そうどもった直樹の隙をついて彼はスルリと逃げ出して柚花を見た。

『僕は、大空翼!君は?』とニコッと言った。


『翼くん?私は九条柚花。よろしくね。』
そして柚花は翼と同じ様にニコッと笑った。

しかし、逆に今度は翼が目が点になった。
『えっ……、九条……柚花?』
どういうこと?そんな目で翼は直樹を見た。

『あっ、前に知り合いだったのかな?私、今記憶喪失でぜんぜん分からなくて……。』
そう申し訳なさそうに柚花は目を下に向けた。