「ブレックファーストはエンジョイできてるか? マリカ」


 耳を疑った。


 イーニアスは、眉を切なそうにしかめる。思いの外、流暢な日本語を話しやがった。


「ええ! エンジョイしてるわ!」


 パァと晴れ渡るように、薔薇色に頬を染めたお嬢様。満面の笑みを浮かべた彼女にイーニアスも笑みを返した。


 二人の輪郭にそって薔薇が咲き誇ったようにも見えた。その一つ一つの花を握りつぶしてやりたい気持ちをぐっと堪える。




「それはよかった。チーズディニッシュは食べた?」


「チーズディニッシュ?」


「これだよ、レディ。口を開けてごらん」


「うわぁ、美味しい!」


「そうだろう」


 俺は、表情崩さずに主の命令を待つだけの身だ。それが執事というものだ。その横顔が、自分に振り向く事はない。



「マリカ、よかったら今夜の舞踏会一緒に踊りませんか?」


 イーニアスのプラチナブロンドの髪に見とれていた茉莉果お嬢様、隙を見せた彼女の白い手をイーニアスがそっと持ち上げた。


 イーニアスは意味がありそうな視線を俺に投げる。そして唇を引き上げると、こっちを見たまま彼女の手の甲にその唇が触れた。



 イチ……二……サン……。


 三秒も我が主の手に唇を付けた男、イーニアス・マーティン。



「イーニアスと踊れるなんて夢みたいだわ!」


 王子様の魔法にかけられたお嬢様は嬉しそうに、その誘いを受けたのだ。