「無視なさってください。それが貴女にとって最善です。さあ、脇目もくれず朝食をお召し上がりになってくださいお嬢様」


「ええ? でも、失礼じゃないかしら……あ!」



 あろうことかイーニアスはにこやかな笑みを浮かべて、こちらへとやってくる。


 英国のブレックファーストの座席は、比較的自由だ。食べたい時間に席につき好きなタイミングで離席できる。

 料理も皆に合わせる必要もなく、用意されたものの中から、自分の食べたいものだけを選ぶスタイルだ。



「Good morning、lady」


 よって、次期伯爵がどの席に座ろうと不自然ではない。


「ぐっ……ぐっどもーにんぐー!」


 茉莉果様が、赤面して小さく可愛らしい声を出した。


 だが、会話は続かないだろう。我が主は語学に疎い。片仮名で書かれた文字は全てが英語だと本気で信じているレベルだ。


 主を冷ややかに見守る。


 だから何度も英語だけはマスターなさるように、口煩く言ってきたのだ。ついでに男に誘われないような作法も体に教え込んでやるべきだった。