たくさんの人に囲まれたご両親を尻目に、彼女は物憂げなため息をまた吐き出した。



 温めておいた搾りたてのミルクを、慎重に澄んだ紅茶に落としてゆく。綺麗なベージュのミルクティをカップにセットして、シルバーのトレイにのせた。

 トレイの上でティースプーンを添えて、それを主へと静かに差し出す。



「お待たせしました。茉莉果お嬢様」


「ありがと、柏原」


「ご両親の傍でご朝食を召しあがられてはいかがですか?」


「いいのよ。英語わからないもの」


 柔らかそうな髪をフワリと揺らし、白磁のような手でカップを綺麗な仕草で持ち上げる。


 美しく儚い人だな……まるで中世の絵画に登場するような繊細で愛らしい横顔。



「うん。柏原の紅茶は、どこで飲んでも美味しいわね」


 その顔を微笑ませて投げ掛けてくる視線は愛嬌があり、どこか妖気な美しさもある。


「勿体ないお言葉、感謝いたします」


 執事である俺を褒めてくれる。これでも、いつだって純粋に嬉しいと思っている。



 だけど、お嬢様の興味はすぐに他に移った……ゆっくりと味わうように紅茶を口にしては溜め息をつき物憂げな所作を繰り返していたお嬢様の眠そうにしていた瞳は、ぱっちりと開かれた。