────基本的に紫音家ご令嬢茉莉果お嬢様は、屋敷にて余暇をお過ごしになられる。彼女は社交的な場所をあまり好まない。


 退屈といえば退屈な方なのだが、執事の俺からすれば楽な方だ(もちろん、それ以外が非常に難儀な方でもあるが)。



 彼女は、人との関わり合いも、あまり深く追求していないようだ。 お嬢様が"親友"と呼ぶ方は、どう贔屓目に見ても"犬猿の仲"と呼ぶのが相応しいし、それらしい友人もいらっしゃらない。上辺だけの付き合いで、たまにパーティーに足を運ぶ程度だ。

 そういう場所では、彼女の美貌とその境遇に目が眩み、近寄ってくる輩はいるが、それらは旦那様の命を受けた俺が丁重に排除している。




 今日も、お気に入りのソファーで微睡むお嬢様。女性らしいミルキーピンクのカラーとレースを使ったデザインで、クリっとした瞳を持ち、フランス人形のようなお嬢様によく似合うソファーだ。


 このまま見知らぬふりをしていたら、すぐに夢の世界へ旅立つだろう。



「お嬢様」


 だけど、こんな時間に昼寝されても迷惑だ。そうすると夜寝ずに夜更かしをしてしまい、俺の勤務時間が延長になってしまうだろ。


 しかも、夜更かしが盛り上がってしまうと、次の日の朝寝不足のお嬢様を起こすのは至難の技が必要になる。


 要は、彼女が昼寝すると俺にとって良いことが何一つない。