「はあ……」


 雇い主は腕に力を込めて、俺に見せつけてきた。




「勝負してみようか!」


「いえ……俺……いや、私はけっこうです」



 力なんて有り余る程、持て余している。使い場所がないだけ……でも俺は暴力だけじゃなく、もっと賢い力の使い方を知っている。



「もし柏原くんが勝ったら、娘を嫁にやらないとならなくなるな! はははっ、負ける気はしないけどな!」



 女は間に合ってる。掃いて捨てるほど、次から次へと言い寄ってくる。


 女なんて…………



「ほら、まず右手を合わせて。倒したほうの勝ちだ」


「かしこまりました。アームレスリングですね?」


「あーむ……? 腕相撲だよ。柏原くん」


 強く頷く雇い主は、自信満々の顔で目を輝かせている。


「レディー……ゴー!」


 間抜けな掛け声に脱力したが、体勢を立て直す。顔を赤くして渾身の力を込める雇い主……には悪いが、作曲ばかりしている腕に負けるはずがない。



 このまま、負けた振りをするべきか?

 責任をとらされて、見てもない小娘を嫁にもらえと強迫されても迷惑だな……



 ふと、雇い主の机の上に娘の『茉莉果』と呼ばれる少女の写真が飾られている事に気がつく。


 日本で暮らしている、天真爛漫でワガママな小娘か……。


 その顔は清く美しい……

 気高そうな少女が花が咲き誇るように微笑んでいる。




────両手を拘束して、うんと弄んで、散々泣かせてみたら楽しめそうだな……