娘の好物や趣味嗜好を聞き出し、ノートにペンを走らせる。


「ヴァイオリンのレッスンはドイツから一流の指導者を雇っている。だけど、茉莉果はあまりヴァイオリンが好きじゃないらしい……」


「かしこまりました。お嬢様がヴァイオリンレッスンに集中なさるよう、私のほうでも対応させていただきます」


 世話が焼ける女だな。音楽一家に生まれたのだから、諦めて楽器の一つくらい弾きこなせよ……


「それから、プロジェクトMって作戦を考えたんだよ。柏原くん」


 

「……はい、どのような作戦でしょうか? 私に対応できればよいのですが……」


 馴れない敬語を必死に絞り出すだけで精一杯だというのに、話の雲行きが怪しくなってきた。


「可愛い茉莉果の花婿になる男は、私より『腕相撲』の強い男ではなければならない! そう考えたんだ!」


 この方は、本当に親切だ。初対面の俺を信頼して必死に話をしている。