「宮根はここにいると聞いたものでな」


経理の鬼・倉持さんが、平然とした顔でこちらを見ている。

「きゃあ!」と叫んだ莉衣子ちゃんは、慌てて資料室を出て行った。


俺は口元を引き攣らせる。



「邪魔しやがって!」

「そんなことより、この領収書は何だ? ベビー用品だぞ? こんなものが経費で落ちると思っているのか?」

「仕方ないでしょうが! 先方の部長さんに子供が生まれたんだから、当然の贈り物でしょ!」

「無能の言う台詞だな」


瞬間、倉持さんは領収書をビリッと破く。

俺はさすがに絶句した。



「何すんだよ、あんた! 俺と莉衣子ちゃんの愛の語らいを邪魔しただけじゃ飽き足らず、こんな非道な仕打ちまでしやがって!」

「四の五の言う暇があるなら、働け。仕事中だろうが」

「俺は契約を取ってきたんだ! ノルマ以上にやってんだよ!」


それでも倉持さんは微動だにしない。

これじゃあ、咆哮してる俺の方が馬鹿みたいじゃないか。


俺は息を吸い込み吐き出して、



「まぁ、いい年して結婚すらできない倉持さんは、ひがみ根性丸出しで俺の邪魔をしたいだけなんでしょうけど」

「悪いが俺は、3月に結婚する。何ならお前も式に呼んでやろうか?」

「なっ」


嘘だろ?


何でこんな鬼畜野郎でも結婚できるのに、俺が莉衣子ちゃんに拒否されるんだ。

こんなのおかしすぎる。



「ありえない」


さすがの俺もよろめいた。

宿敵である倉持さんは、そんな俺を鼻で笑い、「とにかく無駄な経費は使うなよ」と、念を押すように言って、きびすを返した。


俺の吐き出した重すぎるため息は、床に散らばった資料の上に消えた。