年上ぶっちゃって。

だからって、沖野くんは、絶対に私を、本気で馬鹿にしたりはしない。



「私もたまには本でも読んでみようかしら」

「あんたそんなこと考える前に寝なきゃダメでしょうが。今日だってふらふらしてたくせに」

「心配?」

「そりゃそうでしょ。あんた頑張りすぎなんですよ」


いつの間にこんな関係になったのかはわからないけれど、でももうずっと前から、愛されているのだろうなという自覚はあった。

そして私は、それをひどく心地よく思っていた。


私のすべてを肯定しながら、嫌な顔ひとつせず、いつも半歩後ろから支えてくれる沖野くんに、甘えている自分もいるのかもしれないけれど。



「優しいよね、沖野くんは」

「普通ですよ」


あぁ、癒される。

いつからだとか、どうしてだとか、そういうことが本当にどうでもよくなる瞬間だ。


私たちは目を合わせ、ふたりで小さく笑い合った。


と、その時、枕元に置いてあった私の携帯が着信音を鳴らした。

手繰り寄せたそれのディスプレイを見て、「げっ」と声が漏れてしまい、私はため息混じりにまた携帯を閉じた。



「出なくていいんですか?」

「いいの。母からだから」


おかげですっかり目が覚めてしまった。

体を起こす。


着信音は長く鳴り響いた後、ぷつりと途切れた。



「でも、こんな時間に掛けてくるくらいだから、何か急用でもあったかもしれないじゃないですか」

「こんな時間じゃないと私が電話に出ないからというだけよ」

「そんなに嫌なんですか? 『母』が」

「そうね」

「トマトより?」

「トマトは私にしつこく結婚を迫ったりはしないでしょ」


私は思わず自嘲気味に笑ってしまう。