「ちょっと倉持さん! これどういうことですか!」
怒鳴り声と共に経理課に入ってきたのは、
「宮根か。うるさいぞ、お前。静かにしろよ。どうした?」
「どうしたもこうしたも、何でこの領収書が経費で落ちないんですか! 挙句、文句を言いに行かせた俺の可愛い莉衣子ちゃんまで追い返して!」
「日曜に小洒落た店でランチに一万。『俺の可愛い莉衣子ちゃん』とのデート代を会社に請求する気か?」
「接待ですよ、接待! デートじゃない!」
「どうだかな」
「先方がこの日のここじゃなきゃ話を聞かないって言うから仕方がなかったんです!」
「ほう」
「大体、あのババア、香水ぷんぷんさせて谷間を強調する服を着て、俺に気があるんでしょうけど! 勘弁してほしいですよね、まったく!」
「その話は長くなるか?」
「いえ、倉持さんがこの領収書を認めてくれればすぐにでも戻りますけどね!」
まくし立てる宮根さん。
あの、営業課の、私でも知ってる有名人が、こんなに怒っている姿なんて、今まで想像もできなかったけれど。
それでも、倉持課長は顔色ひとつ変えることなく、
「なぁ、宮根。お前、仮にも営業課のエースだろう? 口だけは達者なんだろう?」
「……はい?」
「それなのに、色仕掛けを上手くかわすこともできないのか? 金を使わなきゃ契約ひとつ取れないのか? だとしたら、レベルが知れてるな」
「だからって、これが経費で落ちなきゃ営業課は仕事ができないでしょ」
「それはお前らが無能というだけだ」
「なっ」
すごい。
さすがは経理の鬼だ。
っていうか、宮根さんを黙らせるなんて、とんでもなく恐ろしい人じゃないか。
「もういいです! 覚えてろよ、このゲス野郎!」
吠えながら出ていく宮根さん。
倉持課長はその悪口を、鼻で笑うだけだった。


