伊坂商事株式会社~社内恋愛録~

俺はうな垂れるように壁に頭を預ける。

篠原班長は椅子の背もたれにもたれかかり、



「考えてたの、三日間。ごろごろしながら、ぼうっと、人生とか、結婚とか、仕事とか、雄二のことか、沖野くんのこととか、色々と」

「で?」

「で、一番に仕事の心配しちゃってる自分に気付いたの。だから、あぁ、やっぱり私は仕事が好きなんだなぁ、って」

「わかってますよ」

「そんなこんなで、結婚はやっぱり無理。よく考えたら、私、家事嫌いだし?」

「でしょうね」

「雄二の求める理想の奥さんにはなれそうにないしね。ってことで、さっき雄二には断っといた」

「そうですか」


ちょっと、いや、かなり安堵。

篠原班長は笑う。



「ねぇ、私なんかのどこがいいの?」

「直球ですね」

「どこ?」

「別に。『どこ』とかそういうことじゃないです」

「うわっ、またつまんないことを」

「あんたとずっと一緒にいたいと思った。それだけですよ」


人に言わせておいて、顔を赤くする篠原班長。


馬鹿か、あんたは。

まぁ、そういうところもおもしろいからいいんだけど。



「不満ですか?」

「そうね。少し」

「今度は何が?」

「私よりも若くて可愛い子、いっぱいいるじゃない。それなのに、何も好き好んでこんな30女を選ばなくても」

「だから、年とか関係ないでしょうが。それにあんたまだ29でしょ」

「残念。今日でほんとに30よ」

「えっ」