結局、今日一日、篠原班長は5分とデスクに座っていることがなく、動きまわっていたため、何の話もできないまま、業務終了時間になった。
「あんたはどこにいるのかと思えば」
社内を探し歩くこと、30分。
やっと篠原班長を見つけた場所は、第5会議室。
会議室と言っても、10畳ほどのスペースしかなく、主に企画課が班内ミーティングをする時に利用する部屋だ。
「何? どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃなくて。何でこんなところにいるんですか。帰ったのかと思いましたよ」
「え? もうそんな時間?」
驚いた風に時計に目をやった篠原班長は、
「それがさぁ。久しぶりに出社したもんだから、仕事溜まってるのに色んな人に呼ばれて、ゆっくり書類も見られなくて。で、ここに避難してたんだけど」
「………」
「っていうか、この会社の人たちは、どうして病み上がりの人間に優しくできないのかしらね。ほんと疲れた。嫌になるわよ」
そんな理由でかと、俺は肩を落として壁にもたれかかった。
窓の外には薄いオレンジの空が広がる。
ここからの景色はちょっと和む。
「俺のこと避けてんのかと思いました」
「自意識過剰ね」
「わかってますよ」
「そういえば、話があるって言ってたわよね? 何?」
そんな簡単そうに聞かないでくれ。
「この前の結婚話、どうなったのかなぁ、と」
「知りたい?」
「そりゃあ、まぁ」
「どうして?」
「上司が仕事を辞めるかどうか知りたいと思うのは普通のことだと思いますけど」


