伊坂商事株式会社~社内恋愛録~



「風邪引いちゃって。で、ついでだから溜まりに溜まった有給を消化しようと思ったの。課長から聞かなかった?」


四日目になってようやく現れた篠原班長もまた、元通りだった。

そして当然のように、山辺さんとは口もきかない。


それが余計、俺を勘繰らせるわけなんだけど。



「班長。少し、お話ししたいことが」

「何? 急用? 私がいない間に何かあった?」

「いや、そうじゃないんですけど」

「じゃあ、後でいいかしら。午後から班長会議があるし、私その前に経理課にも行きたいから」


篠原班長はたくさんの書類を手に、早口に言う。


俺を避けるつもりか?

いや、それこそ勘繰りすぎか。



「わかりました。じゃあ、その後ででも、改めて」


おずおずと引き下がるしかできない年上の部下の、情けなさったらないのかもしれない。



「沖野くん。ちょっといい?」


そんな時に俺を呼んだのは、まさかの山辺さんだった。

「ちょっと」と、俺を廊下まで手招いた山辺さんは、



「あのね、単刀直入に聞くけど、うちの班にくる気ある?」

「はい?」

「いや、課長がね、『そろそろマンネリだから大規模に班の入れ替えしようか』とか言い出して。どうかな」

「嫌です。すいません」


きっぱりと言った俺を、「あははっ」と山辺さんは笑った。



「だろうね。俺も恋仇と同じ班なんて嫌だ」

「あんたさらりと言いましたね、今」

「だって、しょうがないじゃないの。嫌なものは嫌なんだから。課長に言われたから仕方なく聞いただけさ」


山辺さんは実は腹黒い人なのかもしれない。

俺はその後ろ姿を、半ば睨むような目で追ってしまう。