伊坂商事株式会社~社内恋愛録~

言い切った篠原班長は、宙をあおぐ。

目を細め、何を思っているのか、自嘲気味に笑った。



「で、今回のプロポーズはどうするんですか?」

「どうしたらいいと思う?」


なぜ質問返しなんだ。



「俺が決めることじゃないでしょうが。あんたの人生でしょ」

「冷たいなぁ。年上なんだからこういう時くらい何かアドバイスしなさいよ」

「経験ないんで、無理ですよ。そういうことは宮根さんに聞いてみなさい」


いや、俺はこういうことが言いたいわけじゃないんだけど。

でも、俺にしとけなんて、この状況じゃあ余計、言えるわけもないだろう。


篠原班長は肩をすくめ、



「本当にわからないの、どうしたらいいか。仕事に未練がないわけじゃない。でももう、誰かに愛されるだけのあたたかい生活でもいいのかもしれない、って」


だったら俺はどうなるんだよ。

と、喉元まで出掛かった言葉は、だけども声にはならなかった。


だってそれは、俺のエゴでしかないのだから。



「でも、それって何か、山辺さんじゃなくてもいいみたいに聞こえますけど」

「そうなのかもしれないわね」


篠原班長の目の淵はまだ赤いままで。

気を抜いたらまた泣き出してしまいそうな顔をしたままで。



「そんなんだったら結婚すんなよ!」


思っただけのはずが、言ってしまっていた自分に自分で驚いた。



「いや、すいません。言い過ぎました。でも、ほんと、それだと班長は幸せになれないんじゃないかなぁ、とか、色々と思いまして」


ごちゃごちゃと、慌てて苦しい言い訳をする俺。

篠原班長はやりきれないといった顔でまた、「そうなのかもしれないわね」と言った。