伊坂商事株式会社~社内恋愛録~

ガタッ、と大きな音がして、「きゃっ!」と篠原班長の小さな悲鳴を聞いた。



「離してよ! やめて! 私はもう雄二なんて好きじゃない!」


考えるより先に体が動いていた。

俺がドアを開けるや否や、驚いた顔をするふたり。


山辺さんは篠原班長の腕を掴んでいて、その篠原班長は、大粒の涙をこぼしていた。



「あんた何やってんだよ!」


それを見た俺は、カッと頭に血がのぼり、山辺さんに掴みかかろうとしたが、



「沖野くん! 違うの! 何でもないの!」


篠原班長は、必死そうに俺を止めた。

山辺さんはバツが悪そうな顔をする。



「すまない。今のは俺が悪かった」


どこまでいい人を気取るつもりだ。

俺は山辺さんに向け、心の中で毒づく。


それでも、それを言葉にしなかったのは、このふたりが、努めて冷静に振る舞おうとしているからだ。



「さっきの話、ちゃんと考えといてくれ、篠原」


山辺さんが出て行く。

篠原班長はその瞬間、顔を伏せ、声を殺して肩を上下させていた。


瞬間的に、俺は篠原班長を抱き締める。



「離れなさいよ。変態。馬鹿。誰かに見られたら勘違いされるでしょ」

「もう誰も残ってませんよ」

「宮根ならきっといる」

「じゃあ、離れますけど。その代わり、泣き顔見られちゃっても知りませんよ、宮根さんに」

「うぅー」


うなるな。

獣か、あんたは。